2012年6月10日日曜日

三嶋善之の詩(4)


二十世紀           三 嶋 善 之
 



過去の道は白く乾いて

はば広く直線で

ゆるやかな山のふもとの

遠くの一軒家から

夕餉の煙が出ている


お風呂が沸いている

かまどの菜っ葉も煮えて

板の間の三毛猫が背を伸ばす

この家の子供たちは数学が得意

素直で丈夫


お盆には必ず帰ってくる

どんなに離れていても

なつかしい父母の暖かい家めざして

気球に乗って帰ってくる

どうしても帰れないとき


夢の中に現れる

それでも

父母はうつむいて

いつものとおり

おだやかな川で鍬を洗い



無言で迎え火を焚く

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