2012年6月10日日曜日

三嶋善之の詩(2)


木 犀               


延び放題の枝をばっさり落とす
新しい風がゆっくり移動する

錆びたバリカンに油を塗って
父が散髪の支度をしている
いつもの場所
木犀の花が咲いている

祖父が父を散髪する
大東亜という戦争
夜明けまで畑に立っている
白い和紙に髪を包んで

長髪で帰省する
乞食が村にいるらしい
正午のサイレンのようにふれまわる
酒の好きな村人たち

黄昏のように視線を避けて
薄く褪めた樟脳
老いた礼服で
儀式のたびに散髪する

知らない場所に行く
知らない人に会釈する
清潔な十月の朝
木犀の花が咲いている

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