2012年9月29日土曜日

新詩集1 

詩集「標本」以来10年ぶりに、詩集を編んでいます。









インドの猿
 

私の祖先は

インドの猿である

理由はいくつかある

何度も夢の中に出てくる船

胡椒を運ぶ大きな船だ

建造中の現場を遠くから見ていた


記憶がある
 
映画「ガンジー」のあの熱風

なぜか木の上で感じていた記憶もある
 
リンネではなく

遺伝子の記憶だ

わが家系は

まず小さなアミーバから猿になった


曾祖父はゴリラに昇格し


祖父はオランウータンに

父はマントヒヒ


ようやく私の時代に人間になれた

しかし私は高いところは怖い

握力も弱く 

尻に青いークがある

先祖は保守本流の猿ではなかった

少数派で

 
人間になりたい群れに属していた

 

 
水滴

 

立杭焼の水滴

酒饅頭みたいに


まるい

やわらかな

和紙に包まれて

 

この水滴は

もともと土

水と火でつくられたもの

 

この和紙は

もともと木

水と火でつくられたもの

 

木と土

もともと母と子

最初は風しか吹かないところ

 

みわたすかぎりさびしい

風ばかりの世界で

育てられた地上の夢











風早のインチキ大王     
 


    魚釣で餌を用いない釣針のことを

    インチキというとして(広辞苑)

 

風の吹く岬

馬が三頭

鶏が三羽

牛と白い灯台

草の花の赤色

はだしの死人に

波が寄せてくりかえす

小さな島

家に着物をかける

風習はさびしい

空に旗はちぎれるように

 

風早の

美保の大王

風に乗って舞い降りる

  

神官が死んだ

 
鉄砲ユリが咲いている 

海に細い雨が降っている

 
風早の美保の大王

立ち止まり

この村の神官はどこにいるのか

 

神官はもともと信用できないやつでした

大王様

 

シニンヲワルクイウナ

古老がなだめる

みんな仲良く暮らしていたのに

大王よ波風をたてるな

自分のために人を利用するな

 

風早の美保の大王はひそかに恐れる

自分をおびやかす村がある

大王は隣の村へ出発する

 

花が咲いている

夏の時計がこちらをむいたまま

しろい畑

この村には画家がいたはず

どこへいった

画家はどこだ

大王立ち止まり問う


古老は下をむいたまま

画家は死にました

なぜだ

画家の目的は死ぬことだったのです

画家はもともと信用できないやつでした

 
シニンヲワルクイウナ

 
古老がなだめる

みんな仲良く暮らしていたのに

大王よ波風をたてるな

自分のために人を利用するな
 

大王は次の村へ出発する

 

おお黄金の麦畑の中で

農民の影がひそやかに移動する

広場に大王立ち止まり

死者は低く合唱する
 

この村には詩人がいたはず

 
すぐに詩人を見つけだせ

詩を作れ

いやなら首をはねる
 

なんといってもオレが大王だ

詩人は首を差し出し

後悔はしないと叫ぶ
 


シューベルトの「冬の旅」が好きです

涙もうっすら浮かびます
 

大王立ち止まり

この村には音楽家がいる

つれて帰りたい
 

音楽家は抵抗する


無理につれていくなら私は死にます

私は死にます

すぐ簡単に

死ぬことができるのだから
 

レクイエムは得意なんだ


大王のマントはひらりと風に揺れ


風早の美保

浦人騒ぐ波路かな
 

雲はながれ

大王のマントは風に揺れ

風に揺れ続け

おお私は大王だ

マントは風に揺れ

揺れ続け

揺れ続けて消えていく
 

雲の切れ目に

消えてしまう



消えてしまう

消えてしま

消えてし

消えて

消え





 


 

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