2012年9月29日土曜日

新詩集8

ごめんなさい
 

滑り込んできた「ひかり」に乗って

わいわいがやがや

おばさまグループの先頭が

私を見つめて

すみません

どいてください

 

私は余裕たっぷり

切符を見せて

座席番号もぴったり一致しています

失礼ですが

列車のお間違いでしょう

 

リーダーは突然振り向き

はやくはやく

みんなすぐ降りてくださあい

いっせいに出口へ走る

 

最近多いね

自分だけが正しい

信じ込んでいて

他人が悪いという連中

困った傾向ですね

 

まもなく

車掌が帽子をとって

お客さん

この切符は次の列車ですよ
 

顔は笑っていない

加えて声も冷たい

  

黄檗山萬福寺
 

木魚が廊下に

ぶらさがっている

抱きしめて

持って帰りたい

 

外は良い天気

エキゾチックなお寺

 
整形したきれいな奥さんが

まったく似ていない子供を連れている

 
突然テープレコーダーが

案内をはじめる

 
京都の中の異国

ここはどこ

 

流言蜚語男

 
敦賀に上陸した敵は

舞鶴の海上自衛隊と小松の航空自衛隊で叩く

それで殲滅できずに上陸した時には

今津の戦車隊が迎え撃つ

それでだめなら

小牧と浜松の空挺部隊が協力して

それでもだめなら横須賀と厚木の米軍

朝霞の戦車隊で首都を守る

どうだすごいだろう誰も知らないだろう

店にいた客は

いっせいに沈黙する

隣は真剣に聞いている

敵が攻めてくる日は近い

しかし誰にも言ってはいけない

 

一人の男

あわてて店を出て行く

誰かに告げるために

 
青い空

 
ムクドリが電線にいる

どこからか鳩もきている

道路に犬が走っている

猫も座っている

とんびが鳴いている

 

小学校の宿題は

巧妙に作られている

 
星座や地球の温度も

誰かが決めたみたいに

安定しているうまくなっている

 
ほどほどに

無理をしないことだ

長生きのこつは

無理をしないことだ

 
そうして

好きな事を追い求めることだ

 

杞憂


いま

真っ赤な太陽が沈むところ

あの赤い球体

明日の朝

再び現れなかったら

今日は暑かった

大きな太陽がいま沈むところ 

再び現れなかったら

明日の新聞の活字は

どんな大きさになるだろう

 

活字が新聞紙より大きくなる日

会社の採用試験は中止になるだろう

 

「天が落ちる」

良識のある人はみんな

心配していた

とうとう現実になった

という社説が出る

 
暗闇のなかで強盗も出る

いずれみんな死に絶えるから

静かにお祈りをささげて

じっとしていると

また再び太陽は昇りはじめ

あたりが明るくなって

学校で教わったでしょ

五百年に一度の皆既日食

子供に笑われる

  

風の強い日

 
コートの襟を立てて

歩き出す

駅はすぐに

現れる

線路は

海岸から

さびしい村を抜けて

高い山を越える

 

列車には

薄茶の目の男と

背の高い女が乗っている

 

どちらも映画に出るような

派手な服装ではない

 
どうしてそうなのか

わからない

二人の会話は

親しそうで

そうではない

 

木の下で

歌うような

楽しさがない

その理由は

わからない

 
 

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