2012年9月29日土曜日

新詩集3


手紙

 

元気ですか

最近は

みずうみのまわりを歩いて

足に砂の感触を楽しんだり

暮れてゆく

山の稜線を眺めて

初めて訪れた町の

案内版の文字が欠けて

「たからまち」が「からまち」と

なっていてもかまわない

 

「鮭」の長い旅に感動しています

 

京都の清水寺で若い女性二人に

写真を撮って下さいと頼まれて

新型のカメラはよくわからない

シャッターがうまくいかない

 

東大寺と法隆寺が好きです

春風にたなびく

しっかりした木材

そのつややかさ

 

滋賀県木之本町の孤蓬庵の庭

小堀遠州の菩提寺だそうで

とても立派でした

それではまたいつの日か手紙を書きます

お元気で
 
 
 
放課後

 

背の高い

上級生が廊下で呼ぶ

「部室へこい」

部室へ行くとぼかんと顔を殴られ

出ていこうとすると首をしめられ

暗い部屋の中で苦し紛れに

相手の足を持ったら

どうっと倒れ

膝が相手のあごにあたり

ベルトに手がかかって

「左四つ」うまく腰に乗った

そのまま持ち上げて

投げてしまった

廊下に出ると

友人が心配して待っていてくれる

「今日は汽車か自転車か」

上級生を倒すと駅で待ち伏せされる

口の中が血で甘い 

汽車に兄貴が乗ってくる

今日は隣に座る

兄は友人と巨人阪神戦の先発投手の

予想ばかりしている

 
 

もしも男に生まれたら
 

益田から小郡へ行く

バスガイドが歌を披露する

「もしも男に生まれたら」

「お国の大事というときは」

「女の私も鉢巻きで」

「刀を持って」

 

高杉晋作 吉田松陰 森鴎外 伊藤博文

山縣有朋 乃木稀典

おお男の中の立派な男たち

そうだ もしも

男に生まれたら
 

しかし私はすでに男に生まれていた

 
金持ちはクイーン・エリザベス号で世界一周

横浜から京都へ新幹線で移動

豪勢だな いいですね

お値段は

はいお値段は
 
なんと ラジオはわめく

うるさいぞ こうなったら宝くじ
 

私は心をきゅっと引き締めて

世の中で大切なものは金だ

その日から私は

詩人の資格を剥奪された

 


橋立港

 

 

太陽は一瞬

雲にかくれ

ふたたび港を照らす

 

きらきら

ひかる

まっ白な船体

 

きみ

荒れる日本海を知らないだろう

 

船の集団

まぶたの裏に焼き付く

きらきらひかるまっ白な船体

静かに休んでいる

 

船の休日

私の休日

 

風が吹いている

小さな灯台

誰もいない 

 

メダカ
 

長男の誕生日にメダカを買った

店のおかみさんはソプラノ

幸せなメダカちゃんたち

ここにいるのは

みんな餌になるところ

 

ところであなた学校の先生

いいえ私は天秤座の男

 

前を行ったり来たり

求愛行動も見た

子供が百五十匹

幸福な家庭だった

 

しかし三年のあいだに

「メダカの墓」は増えた

アイスクリームのバーが不足して

 

私の誕生日

長男がメダカを買ってきた

それは最近開店した

私の知らない店
 
 

上司

 

イツミテモ

スヌーピー

カワイイ

デパートで高校生は叫ぶ
 

スヌーピーに似ている上司

すぐ噛み付く獰猛


ブルドッグに似ている上司

顔に似合わず優美

 

シェパードに似ている上司

とても賢明

 
雑種の上司

目がきらりと光る

 

ちょっと俺とつきあえ

しかたなくつきあう

 

危ない場所で愚痴ばかり

どう猛なスヌーピーのほうがまし

 
新しい職場で

私達は上司を選び終えている



追悼   山本和夫先生に

 

がんばるんだよ

かすれた声は太くあたたかだった

 

いつか先生のところに着いたら

こっちだこっちだ

君こっちだ

手を振ってください

 
国分寺の居酒屋

みたいに

 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿